分野: マレーシア経済・動向
Berjaya Corporation Berhadの2025年次報告書を一次資料として分析し、不採算事業の整理、高級車市場の堅調さ、Coswayの若年層向け再編、REDtoneのAI・デジタル転換、CSRの事業化という5つの視点から、同社が描く「持続的成長に向けた変革戦略」を読み解く。

導入|年次報告書は「未来戦略の設計図」である
「年次報告書は、数字が並ぶだけの退屈な資料だ」
そう感じているとしたら、それは大きな機会損失かもしれません。
年次報告書は、単なる過去の実績集ではありません。
そこには、不確実な環境下で企業が何を捨て、どこに賭けようとしているのかという、経営の意思決定の方向性が凝縮されていると読み取れます。
本稿では、マレーシア最大級の多角化企業である Berjaya Corporation Berhad の2025年度年次報告書を一次資料として読み解きます。
グループ売上高は 93億8,000万リンギット(約21億米ドル)。
この巨大コングロマリットは、現在どのような変革の途上にあり、どのような「次の一手」を描いているのでしょうか。
年次報告書に記された事実から、5つの注目すべきポイントを整理します。
【驚き①】「捨てる勇気」が未来を作る ― スターバックスとKRRに見る戦略的な店舗整理 ―
ベルジャヤは2025年度に 3億8,809万リンギットの税引前損失を計上しました。
しかし、この数字を単純な業績悪化と捉えるだけでは、実態を見誤る可能性があります。
年次報告書を詳しく読むと、その背景には、将来を見据えた意図的な構造調整があったと読み取れます。
スターバックス(BStarbucks)
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地政学的リスクや消費環境の変化を受け、不採算店舗を整理
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その結果、1億4,930万リンギットの減損処理を実施
ケニー・ロジャース・ロースターズ(KRR)
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不採算な21店舗を閉鎖
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売上は減少したものの、管理費・運営費の削減により損失幅は縮小
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税引前損失は 前年度1,580万リンギット → 1,470万リンギット へ改善
不確実性の高い時代において重要なのは、規模の維持そのものではなく、収益構造の健全性です。
ベルジャヤはここで「拡大よりも耐久力」を重視し、次の成長に向けた土台を整えつつあると考えられます。
【驚き②】インフレ下でも揺るがない「超高級」市場 ― 英国 H.R. Owen の堅調な成長 ―
英国経済がインフレと高金利に直面するなか、ベルジャヤ傘下の高級車販売会社 H.R. Owen は、対照的な動きを示しました。
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売上高:5億5,660万ポンド → 5億7,710万ポンド(+3.7%)
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販売実績:新車 1,170台、中古車 1,752台
フェラーリ、ランボルギーニ、ベントレーに加え、デンマークの超希少ハイパーカーブランド Zenvo も取り扱っています。
一般消費が冷え込む一方で、富裕層向けプレミアム市場は、相対的に堅調さを維持していることがうかがえます。
この事例は、多角化企業におけるポートフォリオ分散の効果を示す一例と言えるでしょう。
【驚き③】Coswayは「若返る」 ― Cosyoungに見る老舗ブランドの再定義 ―
創業45年、マレーシアを中心に 364店舗 を展開するCoswayは、現在、大胆な再構築を進めています。
「Cosway Reimagined」構想のもと、
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Z世代を意識した新ブランド Cosyoung を導入
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モバイルPOS(MPOS) を採用し、対面販売をデジタルで拡張
従来の強みである「人を介した販売」を捨てるのではなく、それをオムニチャネル化することで進化させる戦略です。
伝統とテクノロジーを対立させるのではなく、融合させるこの姿勢は、成熟企業が現代市場に適応する一つのモデルと見ることができます。
【驚き④】REDtoneは通信会社に留まらない ― インフラから「知能化」へのシフト ―
通信事業を担う REDtone は、単なる接続サービス提供者から、AI・クラウド・IoTを軸とした高度デジタルソリューション企業へと変化を進めています。
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政府主導の JENDELAプロジェクト を通じ、デジタル格差是正に貢献
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AIを活用した業務最適化・スマート化を戦略の中核に位置付け
「つながる」ことが前提となった社会では、"つながった先で何を最適化できるか" が価値を生みます。REDtoneの方向性は、インフラ産業の付加価値が、ハードからソフト、そしてAIへ移行しつつある現実を反映しているように見えます。
【驚き⑤】CSRを「仕組み」に変える ― Signing Storeという実装例 ―
ベルジャヤのCSRは、理念にとどまりません。
それは、実際のビジネスモデルとして機能しています。
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聴覚障害者を雇用する Signing Store をジョホールに4店舗目として開設
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Silent Teddies Bakery と連携し、スターバックス全店で商品を販売
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2025年6月時点で 10万5,842リンギット超 を寄付
社会包摂を「コスト」ではなく「価値創出」として組み込む姿勢は、年次報告書のテーマである "Towards Better Tomorrows(より良い明日へ)" を具体的に裏付けていると言えるでしょう。
結論|変化の時代に必要なのは「更新し続ける力」
ベルジャヤ・コーポレーションの2025年次報告書が示しているのは、変化を前提とした経営の作法です。
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不採算事業を早期に整理する決断
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プレミアム市場やAIなど、将来性の高い分野への集中
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社会との関係性を戦略に組み込む姿勢
この構造は、企業だけでなく、私たち個人にも重なります。
停滞が最大のリスクとなる時代に、何を手放し、どの「新しい種」に投資するのか。
あなた自身の「年次報告書」を書くとしたら、次に更新すべき項目は何でしょうか。
本記事はBridge International Asia Sdn Bhdがマレーシア現地の取材で得た情報をもとに作成しています。
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